☆2010年4月27日〜5月9日まで開催された作品を編集したものです☆




■ 2010/04/27  第一話 @HINA/【Om Mani Padme Hum】
■ 2010/04/27  第二話 @gako/【Green tea Bar】
■ 2010/04/27  第三話 @蕾/【百花繚乱】
■ 2010/04/28  第四話 @紫苑/【jugoyaso − 十五夜草 −】
■ 2010/04/28  第五話 @SHIRo/【Quiet Life】
■ 2010/04/29  第六話 @まあ/【spcaos】
■ 2010/04/30  第七話 @蛍/【ジョーゼットの雨傘】
■ 2010/04/30  第八話 @凛/【Little rin】
■ 2010/05/01  第九話 @Kanamomo/【Someone's delusion】
■ 2010/05/01  第十話 @HINA/【Om Mani Padme Hum】
■ 2010/05/01  第十一話 @SHIRo/【Quiet Life】
■ 2010/05/02  第十二話 @gako/【Green tea Bar】
■ 2010/05/02  第十三話 @まあ/【spcaos】
■ 2010/05/02  第十四話 @蕾/【百花繚乱】
■ 2010/05/03  第十五話 @凛/【Little rin】
■ 2010/05/04  第十六話 @紫苑/【jugoyaso − 十五夜草 −】
■ 2010/05/04  第十七話 @Kanamomo/【Someone's delusion】
■ 2010/05/05  第十八話 @蛍/【ジョーゼットの雨傘】
■ 2010/05/06  第十九話 @gako/【Green tea Bar】
■ 2010/05/06  第二十話 @HINA/【Om Mani Padme Hum】
■ 2010/05/06  第二十一話 マルチエンディングへのご案内



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最近のキョーコの口癖は「敦賀さんはズルイ!」だったりする。

それは並みはずれて抜群の人体スケールを持っている、という彼にしてみれば少し、いやかなり意味不明の定義から始まり、演技でまだまだ自分が追い着けない領域であるだとか、どんなに仕事が忙しくても周りへの気配りを忘れていないとか、しばしば賞賛の言葉だったりするのだが、決まって最後の一言はこれだったりする。

「………ご自分がコーンだって。……黙っていました」

しゅんと項垂れた様子でそう言われてしまえば蓮に二の句が告げるはずもなく。ただひたすら謝るだけだ。

「うん、ごめんね」
「ずっと内緒にしていたなんてズルイです」
「もう君に秘密にしている事なんてないから」

運転中でなければ宥め賺してキスをして。
抱きしめて。
いつもだったら愛の言葉に摩り替え丸め込んで(←)しまうのだけれど、今はドライブ中でそれもままならないが故か今宵の様相は少々違った。

「本当に?私に秘密にしている事……もうないですか?」

じっと自分を見つめる見開かれた大きな瞳に蓮はドキリとした。
実はあるのだ。秘め事は。
いやでも『コーン=敦賀蓮』以上の爆弾はない。………ハズである。
蓮は逡巡し、覗き込むようにこてんと首をかしげたキョーコにちらりと視線を合わせ微笑んだ。

「じゃあ今夜はお互いの秘密を交換しようか」
「交換??」
「そう、俺がひとつ告白したら最上さんも俺にひとつ秘密を教えて」
「私の秘密ですか?」
「なければ他の人の秘密でもいいよ。例えばだるま屋の大将、実はカツラだ…とか」
「大将は地毛ですぅっ!!」
「いや、だから例えだって」
「でもそんな人様の……」
「勿論言えない事は胸に秘めてて構わないよ。それに俺は吹聴して最上さんを困らせるような真似は絶対にしないから」
「……わかりました」

少々難解な表情を浮かべながらも是と答えたキョーコを確認し、では俺からね、と蓮はアクセルを踏み込んだ。
埠頭には自動車がそれ以上入り込まないように輪止めが施されているのだが、猛スピードで突っ込めば役目など成さない。眼前に迫った海面にキョーコが叫んだとしても無理はない。

「敦賀さん、前っ!まえっっ!!ま〜〜え〜〜〜っ!!!」
「大丈夫。今まで言ってなかったけど……この車、実は水陸両用だから」
「嘘おおおおおおおおおおっっっ!!!!!」

ひょんな事から始まった秘密暴露合戦。
海へダイブする蓮の愛車の中、さっそくキョーコは後悔していた。




⇒第二話へ(gako様お願いしますv)




「うっ……わあぁ……キレイ!」

どっぽーん。
……ぶくぶくぶくと日本海溝に沈み行く蓮の水陸両用モビルスーツもといその一歩手前ポルシェ。
その中でキョーコはフロントガラスの向こうに広がる美しい海の光景に見入る。
ハテサテ何故かエチゼンクラゲがぽこぽこと深海から水面へ浮かびあがっていき、その群れの中に微かに見える赤い魚。
目の前を素通りしてゆくナントカサメ。

「さあ。ようやく2人きりだね。最上さんの番だよ。何を隠していたんだい?」
「え」
エンジンを自動運転に切り替え、蓮がキョーコに向き直った。

「ここなら誰にも聞かれないし」
「あ」
「ん? 何があったって大丈夫だよ? 俺が守ってあげるからね。何でも言ってごらん?」
「いえその」

ぴきっと固まり、蓮を見るキョーコ。
ももももも、もしかして。
これは例のアレを白状してしまえば、例えば敦賀さんがあーなったり、こーなったり、そーなったりしても、逃げられないということで。
めっちゃ罠にはまったんだと今更気がついたり、しちゃったり?
ででで、でもでもでも。
今晩は駄目なのである。何故かは言えない。キョーコは己が鶏であること以上に深い秘密に苦しんでいたのである。

「つつつ、敦賀さん? それはもうちょっと後にして」
「どうして?」
「どうしてって、それはやっぱり外の海がきれいだから……っって、何してんですかつるがさん!」
「何もしてないよ?」
「してるじゃないですか、何こっちくるんですか、てか、何シート倒してるんですか。ってか、何故上にのってくるんですかあ! ああっ、どうして脱がすんですかっ! ちょ。ちょっちょちょちょ、ちょっとちょっとちょっと!」
「可愛いねキョーコ」
「待って敦賀さん! へぼん2話目からテーマずれちゃってますよ! 今は秘密暴露の回で! 大人な話は厳禁なんですよ!」
「じゃあ早く言った方が楽になれるよ?」
「……解りました! 白状します!! 私、実はアンドロイドなんです!」

……しーん。

「……はい?」

ひく。
蓮の口元が歪んで固まる。

「ごめんなさい敦賀さん! 本当の最上キョーコは実は今、モー子さんのおうちです! 社さんにお願いして身代わりのアンドロイド……私を調達してもらったんです! だってだって、だって敦賀さんったら!」

キョーコはがばりと起き上がり、蓮を押しのけダッシュボードを乱暴にあけた。

「あっ! そ、そこは!」

「だって敦賀さんったら! こんな恥ずかしいもの、車に隠しているんだものおおおっっ!!!」




⇒第三話へ(蕾様申し訳ありませんっ!!! 後で土下座100万回しますので、何卒お願いいたしますううう!)




どさどさどさ。

蓮が止める間もなく、開けたそこから落ちたのは―――舞台上でのキョーコの写真に始まり、水泳大会の水着姿、某エステCMの大胆写真、プライベート写真、エトセトラエトセトラ。
が、てっきり写真で埋め尽くされているだろうと開け放ったダッシュボードからは、何故か写真以外のものまで落ちてきて、開けた本人の方が驚いた。

「え゛……な、何でこんなものまで?!」

嵩張る写真の中から拾ったのは見覚えのあるものだ。出演したCMで用意されていたストローで、複雑且つ可愛らしく曲げられたそれは一般で販売されていない。
良く見れば他にも似たような限定品が散らばっている。勿論、全てキョーコが使用した事が前提の―――ある意味、どこで手に入れたんだそんなモンというような京子ファン垂涎の―――逸品達が。
だからといって、現場に遭遇した本人としては微妙なところ。指摘したのは自分とはいえ、正直泣きたい。予想外の現実を改めて目の当たりにしたキョーコの頬がひくりと引き攣る。

「…キョーコ、人のコレクションに悪戯しちゃ駄目だろう?」
「ごめんなさ…じゃなくてっ! 言われるの私ですか? 私なんですか?! それよりも敦賀さん、何でこんな…?」
「君の使用済み物品なんてそんなオイシイもの、残しておいたら何に使われるか。きちんと回収しておかないとね? 恋人としての当然の義務だよ」

使うって何の使い道が?! っていうか、開き直ってる?? 恋人の義務ってそうなんですか?!
蓮の言い分に対し、疑問は果てしない。いい加減回路が沸騰しそうだ。なのにそんな彼女を嘲笑うかのように更なる混乱が傍で待ち構えていた。
その事に気付いたのは、海中ドライブを楽しんでいるかと思われた蓮が急に車のギアを切り替えたから。

「あれ? 敦賀さん。ギアをセカンドに切り替えて……ひょっとして陸に上がるんですか?」

精神的にダメージを受けたキョーコとしてはもう少し海の世界を楽しみたい。そのつもりで質問したのだが―――答えは彼女が望む…否、予想外の返事だった。

「いや、そうじゃない。上陸はまだしないけどね、でも上の世界でのんびり寛いでるウサギさんは迎えにいかないといけないかな、と思って」

―――お仕置きも兼ねて。

極上の甘さを含む声は、こんな状況でなければクラクラきそうな程に色香を放っている。が、「ウサギ」と「迎え」。このキーワードでこの後起きるであろう事態を悟ったキョーコは瞬時に青ざめた。

「ままままままさか、敦賀さんっ!? お、怒ってらっしゃるんですかっっ!!」
「いや。そんな事無いよ? 実際、楽しみも増えたしね?」
「…楽しみ?」

「君が本当にアンドロイドなら、ホンモノと比べて見てどれくらい違いがあるのかな……とか?」

「二人のキョーコに囲まれるなんていいね」と笑う男の横で「ひィィィィィ!!」と声にならぬ悲鳴は、お生憎様な事に海中には響かない。その様を楽しげに眺めた蓮は「じゃあ、ここで次の暴露といこうかな」と更に瞳を細め―――…


「俺は海中で愛を叫ぶ! キョーコ、永遠に愛してる!」


と、いきなり車中で公然の大告白をかました。
そんな告白を何の準備もなくされた側として、どんな反応をしたら良いのか―――が、キョーコが何らかのアクションをするより早く、ゴゴゴゴ…と周囲で不穏な音が鳴り響く。
何だろう? その数分後、大き過ぎるその音にキョロキョロと忙しなく辺りを見回すキョーコの前に現れたのは―――…


「ねぇ、キョーコ? 普段からしてあんなに忙しい社長があらゆる場面で登場するのを妙だと思ったことは無かった?」
「……」
「御世話になっててなんだけど、ホント、社長って得体がしれない人だよね」
「……」


それを貴方が言いますか、とか、その中に入りたくないです、とか、突っ込むべきところは多々あったのだけれど。
目の前に開いた入口同様、カパリと口を開けたままのキョーコには何も言えなかった。


「ようこそ、ローリィ宝田海中自動車道へ! という訳でキョーコ。これで琴南さん家まで行くのに大分時間が短縮出来るからね☆」


―――海中に現れたのは、派手なレーザー光線を背景に散らす『メガ●子』ならぬ『メガ社長』だった。




イラスト提供 @きゅ。様[桃色無印





⇒第四話へ(えーと、上記の参加名簿順じゃない…ですよね?という訳で、次は紫苑さんに お ね が いw 勘違いな私の後始末を/笑)




「さぁ、キョーコ行こうか?」

蓮が甘く微笑むと、どこからかファンファーレが鳴り響いた。それが合図のように『メガ社長』はゆっくりと腰を折り曲げ前傾姿勢になると、かぱっと口を開く。大きく開かれた口からはうぃーんと梯子のようなものが伸びてきた。

「こ、今週のビックリドッキリ●カ登場っ?!」
「キョーコは面白いこと言うね。 あれは海中自動車道の入り口に通じるガイドだよ。ちょっと揺れるかもしれないから、しっかりつかまってて?」
「つっ、つかまるってドコにですかあっ!!!」

他につかまる物もなく、自分を固定する細いシートベルトを握り締めるしか術のないキョーコ。車中に舞い散る写真や蓮の大切なキョーココレクションと共に、二人を乗せたポルシェは『メガ社長』の口の中へとすごい勢いで吸い込まれて行く。

何もかも経験済み、といった涼しい表情の蓮の隣で、未知の世界へと飲み込まれる恐怖にキョーコは思わずぎゅっと目を閉じた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!」



「……キョーコ? 目を開けて周りを見てごらん?」

耳元で蓮に囁かれ、恐る恐る目を開けるとそこには――

「う゛……」

窓の外、車を取り囲む海中自動車道の壁面は無機質なコンクリート……ではなく。
無数の大型液晶画面で天井まで埋め尽くされていた。その画面の全てで世界の名だたる恋愛映画が映し出されている。それも何故かキスシーンばかり。

「さすが社長、自称“愛の伝道師”だけあるよね。移動の時間さえ無駄にしないところが」

車を自動運転に切り替えうっとりと外を眺める蓮とは反対に、キョーコはげっそりとしていた。

「濃厚なラブシーンの連続で……目のやり場に困ります」
「じゃあ、俺を見てればいい」

キョーコはしまった! と思ったが、時すでに遅し。車外で繰り広げられるキスシーンの連続にすっかりソノ気になった蓮がキョーコに迫る。

「キョーコ、俺たちの方が映画よりよっぽど……」
「ちょ、ちょっ、まっ」
「素敵なキスシーンが出来るよね……?」

夜の帝王よろしく妖しげに光る瞳で、蓮はキョーコを見つめた。
その大きな手をキョーコの頬に添え、長い指ですうっと唇をなぞる。

「あ……」
「キョーコ、可愛い……」

近付いてくる蓮の顔に、キョーコが思わず目を閉じたとき――


ばしっ!!!!! ぶつん!


車外で照明の代わりも果たしていた液晶画面から映像が全て消え、辺りが真っ暗になった。

「画面が消えた……? 社長が……消したのか?」
「あわわわわ」
「どうしたの? キョーコ。俺が付いてるから真っ暗でも大丈夫だよ?」
「わ、わたしのせい……かも」
「何が? まさかキョーコが電源消したの?」
「消した、というより……消えた、というか。ちょっと気を緩めてしまったばかりに」
「???」

急に暗くなってしまったせいで蓮にはキョーコの表情が見えない。が、その口調から真っ青になっておろおろしている様子は伝わってきた。

「あのっ、私、アンドロイドですからっ! 電化製品を壊してしまうという体質が……ありまして」
「え」
「気を張ってないと周りにある電化製品を同調して壊しちゃうんです! 敦賀さんが夜の帝王で迫ったりするからっ……」
「お、俺のせい? それに電化製品壊すって……社さんじゃあるまいし」
「社さんだって、アンドロイドですよ?」
「!!!」

思わぬきっかけで、自分のマネージャーである社の秘密を暴露されてしまった蓮。
二人を乗せた車は暗闇の中を滑るように走り続けていた。




⇒第四話へ(SHIRoさま ご挨拶時、縁を感じましたので次お願いします! ど、ど、どうかお許し下さいっ!!)




チカチカと目まぐるしく入れ替わる映像に囲まれ
走り続けた先にある前にも見た事の在る水銀の様な幕に突っ込み…
車を乾かす旋風地帯のトンネルを抜けたら
そこは雪国……では無く普通の車道で…
ナビにセットした目標の家の付近に来ていた。

マモナク モクテキチ シュウヘンデス

そうナビの音声ガイドが‘機械らしく’案内した瞬間
走っている道路のすぐ脇のコンクリートが破裂音を立てて
砂埃と共に舞い上がった。

アイニハ シレンガ ヒツヨウダロ? レン…

ナビの声が低く…まるで社長のソレの様に変わり
無情な言葉を吐いて電源が落ち…車が止まった。
自動運転から手動に切り替えてもどうにもこうにも動かず
俺は車を諦めてアンドロイドの彼女の手を引き道路を駆け抜けた。

地面を蹴って駆け抜ける道を何度も破裂音が襲う
アクション俳優の父の血を受け継ぐ俺にはたやすい事だが
彼女を庇いながらでは無傷で居る事は出来なかった。

これを仕掛けたのが社長だけなら良い…あの人の悪ふざけなど
今更始まった事じゃない。
でももし…彼女がこの罠に加担していると言うなら…
俺に…近づいて欲しくない…と言う気持ちの現われとしたら…

しつこくしてしまったからかな…夜寝かせなかったのが悪かったかな…
でも愛しくて愛しくてどうしても離せなかった…
彼女はそんな俺を迷惑に思っていたとしたら…

「そんなお顔なさって…傷…痛むんですか…?」
そう心配そうに俺を覗き込むアンドロイドの彼女を思い切り抱きしめ
「身代わりにでも愛して良い?」そう問いながら答えも待たずに
深くキスをした

瞬間

「らめぇぇぇーーーーっ!」
そう甲高い悲鳴に似た叫び声が周囲に木霊して
目の前のアンドロイドと寸分たがわぬ少女が泣きながら立っていた。
その背後に見える俺の本体(本物)に俺はニヤリと微笑んだ。

さぁ、本番開始だな?
俺はいつまでもあんな量産型社長に
操られてばかりは居られない。




⇒第五話へ(まだ当たって無い方に…と悩んだんですが皆さん
魅力的過ぎて選ぶの困りますね…んー…ずっとお慕い申しております、まあ様、どうか愛とバトンを受け取って下さい!)

とりあえず爆発しまくったらヘ本なんですよね?(きっと誤解)
そして社長は量産型らしい。なるほど。




 蓮のオリジナルがキョーコのオリジナルに苦笑しながら何か囁いている。
 「あれは俺じゃないし、彼女は君じゃないだろう? 泣かなくてもいいよ、浮気になんかならないから」とかなんとか言って慰めているようだ。
 オリジナルの登場で攻撃が終わったのか、あちこちに傷を負った蓮の側では、もう一人のキョーコが出来うる限りの手当てをしている。

 二人の敦賀蓮と二人の最上キョーコ。
 寸分違わぬ二組の男女が互いを見て神妙な表情を浮かべた。
 これはかなりシュールな絵だ。

「さすが、二足歩行ロボットを最初に開発した日本の技術者は優秀だな」
 しみじみとオリジナルの蓮が呟けば、ショックから立ち直ったキョーコがぶちぶちと呟く。
「敦賀さん、突っ込むところがずれていると思います」
「しかし“海の中で愛を叫ぶ”っていうのは、流石に聞いていて恥ずかしかったよ」
「あれがメガ社長の起動スイッチなんだからしょうがないだろう?」
 いい男が二人、腕組をして苦い顔をしている横で、二人のキョーコはひそひそと内緒話を始めた。
「でも……敦賀さんがあんなものをコレクションしていたなんて……本当なの? ストローまで……」
「オリジナルに聞いてみたら?」
「いやよ! 嘘なら信じてなかったのかって言われるし、本当だったらそれはそれで……もっと怖いもの」
「……そーよねぇ、敦賀蓮の私(最上キョーコ)への執着って病的よね」
「病的って貴女が言うの?」
「だって……昨日も寝かせてもらえなかったし……」
「っ……!!」

 内緒話に夢中なキョーコ’ずはうっかり蓮へのアンテナを立てていなかった。故に気がついたときには、がしっと腰が攫われ、各々のパートナーに確保されてしまった後だった。
 少女達は同時に悲鳴を上げる。
「「きやぁぁっ! ごめんなさい、ごめんなさい! 変態っていってごめんなさい!」」
「「……変態って思ってたんだ?」」
「「いやぁぁぁぁ〜〜〜! (大魔王と帝王のコンボーーー!)」」
 キョーコが二人いても墓穴を掘るのは回避できないようだ。
 盛大な墓穴に、これまたどこもかしこもソックリな蓮はいそいそともぐりこむ。

 二人の蓮がそのまま、いかにキョーコを愛しているのか、その愛情の現われがあのコレクションなのだと切々と訴えている。
 そのままその場で押し倒そうとしているのは気のせいではないのかもしれない。
 二組の敦賀蓮と最上キョーコのa……(ごくり

「「敦賀さん! ですから、今回のこのお話はオトナのお話ではなくてぇっ!」」
「「ああ、主催者ならそこらへんは臨機応変に対応するんじゃない? 心配しなくていいよ、キョーコ」」
(ちゅ)
「「((あああーーーこのまま何時もの用になし崩しに食べられてしまうーーー! あっ! そうだ!))」」

 二人のキョーコは何を思ったのかとんでもないセリフを同時に口走った。

「「ムー*プリズ*パワー!」」
「「えっ?」」

 自分達の上に乗っかっていた大男が光の粒子に包まれたかと思うと、気がついたら黒いチワワに変わっていた。
 キョーコ達は苦し紛れとは言え、魔女から教わったとっておきの魔法の言葉でこんな事が起こると思っていなかったので茫然自失状態だ。
「魔女(ジェリー)様は本当に困ったときにこの呪文を使えっていっていたよ……ね?」
「うん」
 黒いチワワを抱いて、途方にくれた己の顔を見詰める。
「なんで、チワワ? って言うか、なんで効くの?」
 もう一人の自分が情けない顔で首を横に振る。
「確か……呪文の解除は「誰にも言えない秘密の告白」……だっけ?」
 自分の顔からさあっと血の気が引いていく。
 蓮を元に戻すには、あの……あの秘密をしゃべってしまわねばならないのか?

 腕に抱いた黒いチワワのツブラな瞳が、可愛らしくなくキラリと光った。




⇒第七話 首を洗ってまっているであろう蛍ちゃんへw




あの秘密は。

あれはまずい。

あれだけはなんとしても守り切って、カンオケまで持っていかなければいけないのだ。

必死に打開策を考え始めた二人のキョーコは、無意識にまったく同じポーズでもって、チワワを抱き締める手にぐぐぐと力を込めていた。
締め付けられ、息苦しさにあえいだ二匹は短い四本足でバスバスと宙を蹴りつけ、助けてアピールを試みる。
が、二人のキョーコにはその想いも足も届かないようだ。……残念。

ふと、キョーコオリジナルがもう一人の自分に問い掛けた。
「ねぇ……あなた、アンドロイドでしょう? なにか思いつかない? 超高性能ICチップとか入っているんじゃないの?」
しかし、キョーコアンドロイドは小さく首を振った。方向は横。
「……私は、あなたの記憶と思考パターンに沿ったことしかできないから……。そういうあなたこそ、オリジナルなんだから柔軟な発想ができるんじゃないの?」
「じゅうなんって……」

どんよりとした重ったるい空気があたりに渦巻いている気がする。きっと色はどこまでも淀んだダークグレーに違いない。敦賀さんのブラックホールを見つけた時に似ているかもしれないな、などとキョーコオリジナルがぼんやり思ったところへ喝が飛んだ。
「ちょっと! あなたがトリップしてどうするの!」
「……だって。この状況でこれ以上何を柔らかくすればいいのよ――――って、その言い方はないでしょう!?」

ぷち。

今までのあれやこれやのブッ飛び体験で、ついに許容範囲を超えたのか。なにかが、キョーコの中で弾けてしまった。
キッっと視線を上げれば目の前には自分の顔。それすらも、なんだか今は非常に腹立たしい。

「こういうピンチの時は、アンドロイドが性能120%で大活躍するとか、それぐらいして助けてくれてもいいじゃない!」
「勝手なこと言わないで! アンドロイドだからって万能なわけじゃないのよ!」
「それをどうにかするのがあなたの仕事でしょう! 私が出来ないことを代わりにするのが!!」
「そんなこと聞いてないわ! だいたい元があなたなんだから、あなたが出来ないことを私ができるわけないでしょう!!」

ぎゅっ、ぎゅぎゅぎゅっ。ぐぐぐぐぐ。
ダブルキョーコの言い争いはとどまる様子もなく、腕には必要以上に力がこもるこもる。
哀れなチワワ二匹はそれぞれの腕の中、死に物狂いでもがもがと宙をかきむしるしかなかった。……がんば。

「……だいたいこの間だってそうじゃない! 先生がお忍びで来日されたとき! 敦賀さんに内緒で先生にいーーっぱい洋服買ってもらって!」
「なんであなたが知ってるの!? 今もちょっとずつクローゼットにしまって敦賀さんにはバレないようにしてるのに!!」
「だ・か・ら! 私はあなただからよ! 私には受信装置内蔵してあって、あなたの発言と行動はぜんぶ私につつ抜け…………」

「「 あ 」」

ぼふんと腕の中で湧き上がる光の粒……というよりただの煙。バラエティでよく使われるスモークのようなものが、二匹のチワワを包み込んだ。
もわもわと綺麗に丸い形で腕の中に溜まるスモーク。

「ちょ、ちょっと待って! 今のがもしかして「誰にも言えない秘密の告白」扱いになったの!?」
「ううううそぉ! だってアレのことは喋ってないわよ!?」
「そそそそうよね!? 私たち、アレのことは喋ってないわよね!?」

そうなのだ。
アレのことはちゃんと墓場まで持って行くべくお口にチャックを……。

「「 あ 」」

もくもくと、スモークの色がさらに濃くなった……気がした。




⇒第八話 土器土器胸胸の凛さまへ〜。(お、お許しを!)




白かったはずのスモークは段々と濃い色へ変化し、最後には真っ黒に変貌した。
薄れる事の無いそのスモークから姿を現したのは…………。

真っ黒な豚さん、だった……。

((ぶ、豚。なんで豚? て言うかどうして豚?))

ら○ま1/2もびっくりな可愛らしい子豚。
しかして、よく見てみればそのつぶらな瞳には剣呑なものが色濃く浮かんでいる。
ごくり、と二人のキョーコは喉を鳴らした。

((なんだかよく分からないけど、物凄ぉーくやばい気がする!!))

「「ねぇ、キョーコちゃん」」

器用にかしかしと後ろ足で耳裏を掻きながら二人の蓮がのたまう。

「「はははははぃいいい〜(><)」」

「「服が増えていたのは気付いたけど、『アレ』、彼に買ってもらったんだね……」」

き、気付かれていたんだ、とは思ったけれど声には出さないキョーコ’S。
沈黙は金。
言わない方が身の為だという事を現在進行形で学んでいる。

けれど。
魔女(ジュリー)様に教えてもらった呪文は解かなければいけない。
でも。
あの秘密は本気でまずい。
せめて、せめてその手前の秘密でこの魔法は解けないだろうか。
この秘密も本当なら墓場まで持っていくつもりだった。
けれど、あの秘密を言わないで済むのなら、そしてこの二人が元に戻るのなら……。

というか。この秘密すら、言った後の蓮’Sが怖いのだけれども……。

「「あ、あのぉ。敦賀さん?」」

「「なんだいキョーコちゃん」」

微笑む黒い子豚二匹。けれどその背後にある空気はその身に纏う黒よりも昏い。

((ひいいぃいぃいぃ))

どれだけ恐ろしくても、後の事が怖くても、言わなければこの事態が収まらない事は分かっていた。

「「あ、あのですね。っ済みません。敦賀さんという方がいながらお見合いしましたーーーーー!!」」

ぺら土下座で謝るキョーコ’Sの目の前で、再びのスモークが子豚を包んだ……。




⇒第九話 ファーストコンタクトがこの場で申し訳無いです。Kanamomo様……、辻斬りごめんっ! 宜しくお願いしまっす!!




「「お見合い?」」

今度スモークの中から現れたのは、子豚よりも黒い、暗黒のオーラを纏った蓮'Sだった。
今にも身が凍りそうな冷たい空気に脅え、ここは額が削れる位の勢いで土下座を続けないと!と思ったキョーコ。
しかし、蓮はしばらくの間ぶつぶつと何か呟いていたかと思うと、急に呆けた様な表情であらぬ方向を見つめてぼんやりとしだした。
スモークも、昏いオーラも消え、静寂につつまれる景色の中、微動だにしない二人の蓮。
その様子に戸惑うキョーコ'Sは恐る恐る蓮に声をかけた。

「「つ、敦賀さん……?」」

やがて、右の蓮がポツリと言った。

「……良い事があったから皆で喜んだの……?」

「そ、それはお祝いですっ」

右のキョーコがすかさず突っ込む。

続いて、左の蓮もポツリと言った。

「ライバル同士が…一分一秒を」

「き、競い合い……ですか」

左のキョーコも急いで突っ込む。

そして、両方の蓮が同時に言った。

「「派手な扇子を持って……我を忘れて踊る……」」

「「それはお立ち台ですっ」」

「「土俵上での……」」

「「睨み合いっって!ごめんなさああああい!いくらでも謝りますから!正気に戻ってください!!」」

一人と一体のキョーコはそれぞれの担当する蓮の腕にすがりつき、必死で蓮をこちらの世界へ戻るように促す。
しかし、蓮は視線を遥か遠くに向けたまま、戻ってくる様子は無く、なにやらごにょごにょと呟き続けていた。

「「お……さる…さんだ…ね……」」

「「うわぁぁん!それはアイアイですか!!お願いですから戻ってきてくださいぃぃ!敦賀さぁぁぁん!!」」

半泣きで蓮をがくがくと揺さぶるキョーコ'Sと、相変わらず遠くを見つめたままの蓮'S。
そんな二人と二体の前に突然、轟音と共に地面の中から扉の様な物がせり上がってきた。
驚いて現実に戻ってきた蓮'Sとキョーコ'Sが見つめる中、それはカラッと軽い音を立てて横に動かされ、扉の向こうの謎の空間からマリアが現れた。

「話は全て聞かせていただきましたわ!」

「「「「マリアちゃん…?」」」」

「こんな事もあろうかと思ってここでお待ちしてましたの!よかったですわ、間に合って……」

何に間に合ったのか、どうやったら今のこの現状とこの場所を予想できるのだろうか、そして今の扉は何、などと疑問の嵐に見舞われ固まった二人と二体。
しかしマリアはそんな彼らの様子を気にも留めず、鋭い眼光で右側の蓮と左側のキョーコの鼻先に狙いを定め、小鳥の様にふわりと飛ぶと光の速さで手刀を繰り出した。

「「あっ」」

鼻先を打たれた二体は、たちまち鼻しかついてない、のっぺらぼうの白い人形に変わり果てた。
アンドロイドがあっという間にただの人形に変わった事に驚いた蓮とキョーコだったが、何気にお互い組み合わせを間違っていた事に気づき、少し気まずい思いをしていた。
マリアはそんな二人には気づかず、ふぅと安心したように溜息をついた。

「これはまだ試作品で危険なのですわ。強力な電磁波を常に発してしまっていて…お姉様がうっかりお見合いしてしまったのも、蓮様が今ちょっとおかしくなったのもそのせいですわ」
「し、試作品…?」
「少し挙動がおかしいところもありましたでしょう?まだ使ってはいけないって言っていたのに……一体どこから流出してしまったのかしら」
「これ……マ、マリアちゃんが作ったの……?」
「秘密だったんですけど……私、プライベートで科学研究所を持っておりますの。そこで開発したものですわ。鼻を押すとその押した人と同じ姿と人格を持ちながら高性能アンドロイドへと変化するのです」
「そ、そうだったの……」

社さんに頼んでアンドロイドを調達した時、鼻なんて押したかしら、とキョーコがその時の事を思い出そうとしている間、蓮は無言で二体の人形を拾い上げていた。
鼻を押した記憶がどうより、このアンドロイドの詳細な仕様を知った事で沸きあがる大いなる野望。

蓮の頭の中にあったのは───キョーコが三人いるパラダイス。

(本体はずっと俺の部屋に置いて、一人は携帯用、一人は仕事用……いや、どうしようか、アンドロイドなら長期保存もできるんじゃ)

贅沢な悩みに思わず顔が緩む。
しかしすぐにその顔はその光で辺り一面を蒸発する勢いの神々スマイルをゆっくりと浮かべはじめた。
そして、そんな蓮の様子に頬を染めて見とれているマリアにこれ以上無い程の優しく甘い声で話しかける。

「マリアちゃん……これもらうね?」
「えっ」

そう一言だけ告げると蓮は素早く小脇にキョーコを抱えた。

「つ、敦賀さん!?」

そして、もう一方の手で二体ののっぺらぼう人形をしっかりと持つと闇の中の道路を己の野望の実現に向かって走り出した。




⇒第十話 この後始末はHINA様によろしくお願いします。あはは、うふふ〜




左手に人形二体、右手でキョーコを抱え走ること10分弱。
蓮は海底トンネルへと戻っていた。非常用の電力は回復したのか内部は仄かに明るい。ヒメゴトにはもってこいだ。
壁際にキョーコを立たせ、蓮は右と左に一体ずつ掴んだ人形をずずいと彼女へ差し出した。

「押して」
「えぇっ??」
「鼻の部分、赤いボタン。ここを押してくれる?」
「そんな…人形が両方私になっちゃいますよ?」
「いいから!」
「何でそんなに真剣な顔なんですかー!(いやぁあぁぁこわいぃぃっっ!!!!)」

眼前に迫った人形の腹を両手で払いのけると、ふいを突かれた為、肩口へ押し戻された拍子にスイッチボタンを押したようで二体は見る間に蓮へと変貌した。立ち上がった二体…いや二人はくるりとシンメトリーに蓮を振り返り異口同音でこう言った。

「「“おいた”はいけないなぁ、オリジナルくん」」

全くもって自分と同じ思考回路らしい、と蓮は改めて認識すると腹の奥から込み上げて来る苦い笑いを押し殺した。

「つ、敦賀さん(たち)何を言って…?」
「「「考えている事は一緒か……」」」
「えぇっ???」
「「「……様相は違うけど三対一って願望は叶ったし、全部俺なら嫉妬もしなくていいね」」」
「ま、まって…」
「「「楽しもうねvキョーコちゃん♪」」」
「いっやぁあぁぁーーーーーーっっ!!!」

一人は正面、残りの二人が左右を囲み背後は壁という四面楚歌のキョーコ。六本の腕が細い身体に絡みついた。

「あ、、、やめっ」
「「「しーーーっ」」」

抗議の言葉を押し込めるように唇は一人の唇に塞がれ、息もぴったりに残りの二人がキョーコの両の耳へとそれぞれ吸い付いた。柔らかく拘束される腕を振り解こうとキョーコがもがけばもがくほど締め付けは強くなり、次第にはもぞもぞと洋服の上からアチラやらコチラやらを撫で始めるではないか。

「ちょっ!敦賀さん(たち)ダメですってばっ!今回は大人の」
「「「もうそれは耳にタコが出来るくらい聞かされた」」」
「だったらこの手、って!!!どこに入れているんですか!ダメですってば、右の敦賀さん!ああああっ!!!左の敦賀さんもそんなとこ舐めないで下さい!!ほらほら正面の敦賀さんも!!ボタン外しちゃいけませーーーん!主催も参加マスターさん達もここを読んでいらっしゃるへぼんスキーのお嬢さん方も困ってらっしゃいますってぇ!」

(((そうかな?むしろ喜んでいる気が……)))

「やーめーてーーーっ!一人で一度に三人も相手だなんて無理無理無理_絶対むりぃいいぃ〜〜〜っ!!!」
「「「そう?女の子には三つの穴が」」」(byハレンチさん談)(しかし全部は言わせないYO!!)
「いやぁあぁぁぁっっっ!!!!!!」

キョーコの悲壮(過ぎる)大絶叫が響く中、オリジナルの蓮がその耳元で囁いた。

(だったら教えてくれる?―――お見合いって?)

墓場まで持って行こうと決め込んでいた秘密の一つだったが、背に腹は変えられずキョーコは陥落する他なかった。

「む、息子さんです!先生の!!!」
「「「息子???」」」
「はい(えぐえぐ)」

予想外の見合い相手に驚いた蓮'Sが滂沱のキョーコから身を引き剥がしこそこそと呟きあう。

(俺と彼の関係は彼女にまだ言っていないのに)
(息子の俺のところへ見合い話なんてなかったぞ)
(もしかして………もう一人息子がいるとか?)
(((まさか!!)))

三人の蓮はくるりとキョコを振り返りにっこりと。これ以上のものはないだろうというそれはもう胡散臭いまでの神々しい笑顔を浮かべた。

「「「詳しい話を聞かせてもらえるかな?」」」

内容によっちゃ俺(たち)何するか分からないよ、っと。
言外の含みを感じ取り、キョーコはがたがたと震えた。




⇒第十一話へ(SHIRo様がネト落ちする前に投げつけてみる/笑)




ズッ…ズッ…と自分を壁側へ追い込む蓮’s、
これ以上後退出来ないのに何とか逃れようと壁に我が身を
押し付けるキョコ

「「「さぁ、答えて貰おうか…」」」

そうにじり寄る三人に今から起こりえる事態を示唆される様に
六本の手がゆっくり自分の体に絡みついた

瞬間…

薄暗い海中トンネルの頼りない光に照らされた
彼女の涙がゆっくり床に落ちるのを三人はじっと見ていた。

「やりすぎたかな…。」そう思っていた。
「そんなに俺に迫られるのが嫌だったのか…」そう傷つく自分も居た。
「でも…例え傷つけるとしても、彼女の全てを知っていたい!」
そう叫ぶ自分も居た。

それでも彼女の流した雫、たった一粒だけで何も言えなくなる三人…
体は三つでも一つの心を共有してるのか…何て場違いにも思っていた。

静かな空間の中、海中トンネルの壁を
自然の作ったうねりがそうさせるのか…
コポン…コポン…と不思議な音が二人をそっと包んでいた。

手の平で懸命に涙を拭う彼女の肩さえ
抱いても許されるのか解からなかった。
只…彼女が泣いているのを見ている事しか出来なかった。
いつか聞いた幼い頃の不破の様に…

「敦賀さんには…愛される事に慣れてる人にはっ!分からないんです!
どんなに未来を怖がるか…どんなに疑うか…どんなに…!どんなに!
…怖いんです!貴方が情熱的に私を欲して下さるから!モー子さんに聞きました!
激しく燃える恋ほど冷めやすいって!…そうなったら私…私…だから!…だから!」

「「「だから…?」」」
「私、先生の勧めて下さる様にダイアモンドの様な息子様とお見合いして
結婚し、実直な道を歩み、実力派女優となり、しっかり稼げるようになって…」

「「「あの…だからっ!その君の言う…」」」
「先生がお年を召されたらゆっくりとお金の心配をしなくてもいい様に
息子様にも先生の美しき奥様にも何も気を煩わす事無く仕事をして頂ける様に
家計も!身の回りの世話も何一つ不備の無い様に…」

「「「キョーコッ!…だから!」」」
「…安心して息子さまがお嫁に来られる様にっ!…」

何度肩を揺すぶってもまるでお経の様に訳の分からない事を
まるで日本の第二次戦争時に特攻隊の若き兵士達が
仲間に今生の別れを言い渡すように敬礼をしながらそう繰り返す彼女に

俺としたことが…やはり電磁波にやられているのか…
マリアちゃんが言っていた言葉の重要さをようやく思い出すことが出来た。

――これはまだ試作品で危険なのですわ。
強力な電磁波を常に発してしまっていて…

オキアミ…だとかオミアイ…だとか…
何だか訳の分からない事をしたのもその電磁波の影響で…
彼女の本意では無いのであれば!彼女の本意の全ては俺を差して居るのであれば!

…もう何でも良いじゃないか…
さっき彼女はうわ言でも何でも…彼女は俺の愛を失う時が怖いと言った。

彼女が無意識にでも俺を‘失いたくない…’そう思ってくれているなら
こんなに幸せな事は無いだろう?そこで満足は出来ないだろうか…?
そんな事を思いながら俺のコピーである両隣の二人を見た。

彼らは(自分の姿形をしているモノにそう言うのは何だかオカシイ気分だな…)
頷いて静かに首の頚動脈を辺りをそっと押さえると、そこに出てきたボタンを押し…
のっぺらぼうの白い人形へと姿を変えて床にへたり込んだ。
非常ボタンか何かだろうか…

そんな事も気になら無いのか…相変わらず電磁波の影響で
壁に背を向けながら
「僭越ながら!私めがこの日本帝国をぉぉ!守って行く上で
重要な道筋をぉ!たとえ命に代えてでも…」

…もう何が何だか分からない言葉を発してる彼女の手を引き
「さぁ…とりあえず地上へ…」と彼女の顔を覗き込んだ時
ふっと彼女が喋るのをやめた。

「キョーコ…?」
「いつだってからかってばかりで!貴方のペースで私は泳がされて!」

…まだオカシイのは当然か…
そう思い、無視して彼女の手をぐっと引くと
彼女は俺の手を強く振りほどいた。

「俺は海中で愛を叫ぶ! キョーコ、永遠に愛してる!…何て言った癖に!
それだって結局キーだったし。驚いたけど…嬉しいとも思ってたのにっっ!」

そう言って俺の胸を泣きながら叩く彼女…
そのBGMは何とも物騒な音で…


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


い何時間か前に聞いたであろう…
正確にはアンドロイドから伝達された記憶…が未だ忘れていないその音…
俺はふと…この海中道路…いや、メガ社長について考えた。

俺はいつもこれを使う時は離れた所でこのセリフを言って
呼んでいた。つまりこのキーは‘傍に来て入り口へ我を入れたまえ…’の意だ。
でも今、俺達の居る場所は彼(メガ社長)の体内な訳で…

そんな事を考えてる内に金属音を立てて何処かが破壊される音と
それ以上に不穏な激しい水音が遠くから聞えてきた。




⇒第十二話へ(gako様がネト落ちする前に投げつけてみる、いや…あの…だって!だって!ネト落ちする前に回せるだけ回そうと言う話が…)




ゴゴゴゴゴゴゴ

微弱に感じる電磁波からそれはやがて全てのモノを震わせるほど大きくなり。地面が震えうねり、そして隆起しはじめた。

どどどどう。どかーんばりーん!

鮮烈な光と共に、海底トンネルが一気に細かい粒子となって砕け散った。
蓮はとっさにキョーコを庇い、目をつむった。
だが、予想された水圧の洪水は訪れず。大地を揺るがす振動もやがておさまってくる。
目を開けると。
そこは海底だった。

目前を真っ二つに海が割れ、避けて水平線まで延びる道。
太平洋を横断するそれはもしかすると、アメリカまで延びているのかもしれない。

 アイニハ シレンガ ヒツヨウダロ? レン…

再び社長の声が天から降ってくる。

「ああっ!」
「キョーコ!」

背後からいきなり何かがキョーコの身体にまきつき、2人を引き離す。
それはまるで巨大タコ星人の触手そのもので、キョーコを空中まで持ち上げぐねぐねと蠢きながら。更に他の数本にも人影が2人乗っている。

「……社長! ……そしてお前は!」

シニカルにクチのはしを歪め、嘲笑の目で見下ろす不破松太郎であった。

「敦賀蓮。ここまでだな。これでキョーコは俺のものだ」
「なっ何を??」

「……敦賀さん!」

呆然とする蓮に上空からキョーコが泣き叫んで呼びかける。

「ごめんなさい。今まで言わなくて……。お見合いした先生の息子さんって、実はショータローだったんです!」
「……は。はあああああ???????」
「私も社長さんからお話を伺って驚きました。先生は京都出身。仕事の為に不破家にショータローを養子に出したのです。ショーは正真正銘のクーヒズリの息子で」
「ちょ。ちょちょちょ。ちょっと待って???」
「その通りだ。蓮。今こそ隠された事実を告げよう」

大混乱の極致で蓮は、中でも特大の触手に座るローリィを見た。

「アブラハムの子であるダビデの子、アブラハムはイサクの父であり、イサクはヤコブの父、ヤコブはユダとその兄弟たちとの父、ユダはタマルによるパレスとザラとの父である。そしてクーヒズリは、不破松太郎と久遠、すなわち敦賀蓮の父親だ。お前達ふたりは実は血の繋がった兄弟だったのだ!」

どっかーん!
蓮はあまりのショックで顔色も髪の色も真っ白になった。こんなことならチワワのままでいた方が何十倍もましな話であった。

「敦賀さん!」

キョーコが叫ぶ。

「私は今夜、アメリカより登る日の光を浴びればショータローのところへお嫁に行かなければなりません。本当は最後の想い出と思ってドライブに来たのに……。でも、こんな形でお別れなんて嫌です! 私を救って! お願い! 私をショータローから攫って行ってください!」

「……キョーコ!」

「そこでだ。蓮」

ローリィがばさりと古代エジプト風衣装のマントを翻し、厳かに杖で天を刺し語り出す。

「お前達ふたりが、この割れた海の先……日の出までアメリカに到着できれば無事逃げおおせることができるだろう。だがしかし、この場を切り抜けるには、まず」

どどどーん。

巨大タコ星人のもう一本の脚が何かテーブルをとりだし、蓮の前に置いた。
それは緑に白い線、背の低いネットが張られている、よく見るスポーツの。

「さあ蓮! この愛のピンポンで見事不破に勝利すれば、この場は見逃してやろう! そのラケットを拾うんだ!」
「……はあああ? な、なんで今卓球なのですか!」

「卓球ではない! 愛のピンポンだ!

    愛  の  ピ  ン  ポ  ン!   間違うんじゃない!」

すたっ。

クチぱっかーんの塞がらない蓮の前に、ショータローが触手から悠然と飛び降りる。

「ふふふ。俺は自慢じゃないが、ピンポンなら京都支部大会で金メダルをとった実力だ。お前なぞに負けるもんか。キョーコは渡さないぜ! さあ拾え、敦賀蓮! お前の初めての屈辱をな!」




イラスト提供 @きゅ。様[桃色無印





⇒第十三話へ(明日がリミットの、まあ様お願いします!)




 売られたケンかは買う男、敦賀蓮。
 彼はテーブルの上にセットしてあった両面のラケットを取ると、ローリィに確認した。
「不破君に勝てば、この場は見逃してくれるんですね?」
「そうだ」
「もちろん、一旦、キョーコも返してもらえますね? その朝日がなんとやらまでは、俺が彼女の恋人ですから」
「……勝てば、な?」
「わかりました」
 蓮の瞳がきらりと光った。
 そして――

 カッ! と小気味の良い音が深緑の板の上を跳ねてショータローに襲い掛かる。
「てめっ! た……ピンポンは初心者じゃねーのかよ!」
「初心者だが?」
「嘘言ってんじゃねーよ!」
 毒づきながら何とか返した白球を蓮は容赦なくスマッシュした。
 おおよそ誰もが想像する温泉のピンポンとは明らかにレベルが違う速度の球は、ビシーッ! と、音を立ててショータローの脇をすり抜けていく。
「15-18」
 聖書でも読んでいるかの様な厳かなローリィのカウントが響く中、キョーコはタコ足に拘束されたまま、唖然とその光景を見詰めていた。
 確かピンポンだったわよね? とか、これってシロートの試合? とか言う単語が浮かぶが、滅多にない至極真剣な表情の蓮に突っ込む事も出来ない。
 汗が光り、長い手足が優雅に白い球を追う。
 敦賀蓮がピンポン……。
 ミスマッチも甚だしいが、惚れた弱みを差し引いても恋人は格好良かった。
 キョーコは時と場所(と、現状)もわきまえず蓮に見惚れた。

 卓球……もとい、ピンポンは地味な競技にみえて実は奥が深い。
 蓮は競技者も青くなるような回転を球につけ(専門用語で球をきるという)、ショータローに容赦なく襲い掛かる。
 回転をつけられた球は安易に打ち返すと、ラケットの面からあさっての方向へ飛んでいく。
 上級者の繰り出す球はピンポンと言えども、打ち返すのに技術が必要なのだ。
「ちっ!」
 ラケットの面を滑って、真横に大きく跳んでいく白球を目で追ってショータローは舌打ちした。
「17-20。蓮、マッチポイント」
 球を床に数度打ちつけ弾みを確認し、掌の上に乗せる。
 蓮はソレを高く放り上げると、ショータローのバックめがけて恐ろしい速さのサービスを打った。
 カッカッーーーン、と二度白い球が深緑の板を跳ね、呆然と突っ立ったままのショータローの背後にコロコロと転がる。
「17-21」
「……」
「悪いな、不破君。キョーコが絡むと俺は手加減出来ない性質なんだ」
「……けっ、ほざいてろよ。とりあえずは花を持たしてやるよ。だがなぁ〜」
「ああ、日の出までにアメリカへ行かなきゃ意味がないんだろう?」
 タコ足に拘束されていたキョーコを、優雅にエスコートしながら自分の傍らに立たせた蓮はやれやれという風に溜息をついた。
「敦賀さん……」
 やっぱり愛しているのはこの男性だけ……と、キョーコの潤んだ瞳が言葉より雄弁に蓮に伝える。
「うん、大丈夫。まかせて?」
「でも、今からアメリカへなんて……」
 うな垂れるキョーコの向こうでショータローが「ったりめーだろ、キョーコあきらめてこっちこい」と吠えている。
「うん、大丈夫だから……あまり使いたくなかったんだけど……」
「え?」
 訝しがるキョーコを腕に抱いたまま、蓮は諦めた様に呟いた。
「俺は海中で愛を叫ぶ。キョーコ、永遠に愛してる……スペシャル……」
「え? スペ……?」



 パンパカパーーーンと高らかなラッパの音と共に「今週のビックリドッキリメカーーー」と言うマシンボイスが流れ、何処から湧いて出てきた小さなロボット達が「チ、ワワ、チ、ワワ」とリズムをつけながらまとまって行進していく。
 その先では、何かの物体が形作られていた。
 キョーコもパカーと大口をあけて驚いていたが、ショータローも同じように腰を抜かしていた。
 一人平然としているのはローリィで、彼は蓮をみてニヤニヤと薄笑いを浮かべる。
 小さなロボット達のリズムを取る声が聞こえなくなり、派手な効果音と共に最終的に現れた姿は……
 F-4、通称ファントム。
 今尚現役の超音速戦闘機だ。
 機体にチワワがプリントされていて、キョーコはこれから起こることがなんとなく想像ついてしまった。

「敦賀さん?」
「大丈夫、俺、操縦できるから」

 先を越されて二の句が告げない。
 絶句している少女を後方座席に放り込むと、蓮はひらりと操縦席に入った。すかさず、コックピットを閉めてエンジンを始動すると、何処からともなくワンダバダと音楽が鳴り響く。
「へ?」
「海中から発進って言ったら、ワンダバだろう?」(SBまで遡らなかった作者を褒めてくれ!)
「はぇあーー?」
 素っ頓狂な声で驚くキョーコを振り返り、ゆっくり機体を前進させながら蓮は微笑んだ。

「もう、俺に秘密はないね? キョーコ?」




⇒第十四話へ
連休なのにゴメンナサイ、悪いのはHINAさんとgakoさんです。ここは一つ相方故の不幸とお諦めくださいませ〜>蕾さん




彼の深い笑みに華やかな薔薇が飛ぶのは毎度の事。
とはいえ華麗な笑みの向こうに「これ以上の秘密は許さないよ」「よしんばあったとしても内容によっては…」なんてブラックホールなどものともしない異次元が見えたら流石に怖い。
こんな空気を前にしては必死にならざるを得ない……キョーコは頭を悩ませた。

(秘密ねぇ…モー子さんと下着をお揃いにしたのは…入らないよね?)

思い出しては考える。自分的には大した内容でなくとも問う側によっては「何で今迄黙ってたの?」という事もある。相手が蓮なら特にだ。浮遊感を感じつつ、片っ端から思いつく限りを脳裏に浮かべ、消去法を取っていく。

(私なら敦賀さんと社さんがお揃いの下着を履いてても何とも思わないもん。後は何だろ……秘密かぁ。改めて質問されると……)

蓮や社が耳にすれば愕然とする想像だ。暫くうんうんと唸っていたキョーコであったが―――その内にふと最近の出来事を思い出したらしい。

「えぇ、と。これが秘密になるのか判らないんですけど。この前、私、撮影現場で社さんにだ……れたんですけど?」

と、居心地悪そうに呟いた。

ポツリポツリと話したせいで肝心な部分が音にならない。しかし相手は社。状況と事情を話せば問題ないかと思い、キョーコはチラリと蓮の背中を見上げ、そして……固まった。

「 だ か れ た … ?」

不穏な空気を撒き散した蓮がそう呟いていたからだ。

「ちょ、敦賀さんっ? 相手は社さんですよっ??」
「社さんも男だよ? その彼にキョーコは抱かれ……たんだよね? いつ? コトは撮影現場? 社さん、俺に神聖な職場でとか言っておきながら……俺だって仕事場ではまだなのに!!」
「何恐ろしい事を口にしてるんですかーー! じゃなくて、それ聞き違いです! 単に抱き締められただけ…!」

「 だ き し め ら れ た ? 」

そこで邪悪な空気が上乗せされる。振っといてなんだが、このままじゃ社さんが危ない! ついでに自分の身も! 瞬時に悟ったキョーコは慌てて弁解を始めた。

「違います! 敦賀さんが考えてるような事は何も! 敦賀さんが今思い浮かべてる私も別の私です! 単に社さんがしつこい共演者の人を演技で追い払ってくれただけですからーーー!!」

やましい事はありませんっ! だから操縦をー! と頭をシェイクし、正気に戻そうとするのは手段として如何なものか。
しかも対象は操縦中。下手すれば墜落しかねない。
が、別次元に飛びそうだった蓮の意識は最後の台詞で留まった。チワワや子豚にされたり、お見合い、果ては両親の隠し子説――と多種多様な出来事に見舞われた割には繊細な神経である。全てはキョーコの愛ゆえ、と言われればそれまでではあるが。

「そうか。社さんに悪い事をしたな……」

もう少しで廃棄処分にするところだった。アンドロイド社が理不尽な恨みから逃れられた瞬間である。まともな思考を取り始めた蓮は常に協力してくれた彼に対し済まなく思い、心の底から詫びるのだった。だからといって―――

「でもね、さっきの台詞は相手が信頼する社さんだけに実にパンチが効いたんだ」

脳裏に「社さん、私を滅茶苦茶にしてー!」と別人格な恋人を思い浮かべる程、傷つけられた男心については話は別。

「操縦が危うくなりそうな程にね。だからキョーコ、罰を受けて貰うよ?」
「うぇぇぇぇっ?!」

背後で慌てるキョーコの前。蓮は、すちゃっと手鏡を取り出した。

「この前ね、ある国の女王様から鏡を綺麗にしたご褒美に貰ったんだ。まあ、見てて?」
「…へ?」
「テクマク●ヤコン、テクマクマ●コン、レイノになーれっ!」

キラキラキラ!
蓮の呟いた呪文と同時、輝く手鏡。すると鏡から放たれた淡い光が蓮を包んで―――こんな時でなかったら、対象がこの人でなかったら、きっとキョーコは狂喜乱舞していたに違いない。
瞬きの後には恋人ではない別の男が目の前に。操縦席に座る元チワワだった男がビーグルに変身していた。


「他の男だと腹が立つけど、中身が俺だからね。然したる問題も無いよ」


だから安心してね、と言われても……然したる問題は大有り過ぎる。何より外側が苦手とするレイノ、中身が彼以上に癖がある蓮であるならば、それはある意味最悪のカードではないのか…。
心躍る筈の魔女ッ子―――この場合悪魔ッ子? 魔王の子?―――変身シーンだって素直に喜べない。場所は密室。逃げ場も無し。一体、この後何が起きるのだろう。人生楽ありゃ苦もあるさのフレーズが脳裏に思い浮かぶ。

(お仕置きにしたって最悪のチョイスよぉぉぉ!こんなの嫌ぁぁぁ!!(涙))

空の旅は変わらず快調。凄い勢いで空を切る。
が、単純とは言い難いアメリカへの旅路に不安を感じてしまい、後部座席に座るキョーコの身体が無意識に後ずさった。




⇒第十五話へ
連休真っ只中にすみませんっ!
と言いつつ、バトンを凛さんに『とりゃー!』と投げる私……凛さん、後を宜しく☆




けれどそこは狭い機内。
後ずさる程のスペースはさほど無く、すぐに背は障害物にぶつかった。

「で、でででも敦賀さん? いくらお仕置きと申しましても、今、私に何かをする訳じゃないですよね」

「そりゃあね。今はさすがに無理だけれども、アメリカに到着した暁には」

「暁には?」

「あれやこれや?」

含む雰囲気はすでに敦賀蓮のそれではなく。

(NOぉおぉぉおおおおおおーーーーーー!!!!!)

絶対に嫌、絶対に嫌、絶対にいっやぁぁぁぁあ!!!!!!

「敦賀さん、先ほども申しましたけれど、今回の企画は15までなんです! 18はダメなんですぅ!! テーマはへぼんでそこから外れちゃいけないんですってばっ! 第二話でドキドキした方も、第十話の三人蓮でもしかして? と期待された方も、第十二話のタコ触手できゃあ♪ と思われた方もいたとは思いますけれど、でもダメなものはダメなんです!! しかも、中身は敦賀さんとは言え、見た目はあの魔界人じゃないですかっ! 駄目です! そんなのこの世の蓮キョ好きーさん達が悲しみます!!」

そんなやりとりの最中でもファントムは構わずアメリカへとその歩みを着実に進めている。

「大丈夫だよ、キョーコちゃん」

自信満々に言う蓮。

「この世の蓮キョ好きな人はね、俺達がラブラブならそれでいいんだから」

今、この状態をらぶらぶと?

「それにこれくらいしないとお仕置きにならないだろう?」

お仕置きって、お仕置きって、こんなの嫌がらせ以外の何物でもないじゃない!!
ぶちん、と何かが切れようとしたその瞬間、ころりとキョーコの足元に小瓶が転がる。
その中には、赤と青の丸い何かが一つずつ。
そうだ、と閃いてキョーコはゆったりと口を開いた。

「敦賀さん。分かりました。そのお仕置き受け入れます。ですので、代わりにこれ食べて下さい」

と、蓮が何かを言う前にその小瓶から赤いソレを取り出して口の中に押し込めた。

「ん? キャンディー?」

呟くその声と同時に蓮(見た目レイノ)の身体が小さくなる。

「キョーコちゃん、何をしたんだ!?」

慌てふためいた声が機内に響く。

「何って、何もしてません!! 元のサイズに戻りたかったら、その魔界人の姿から敦賀さんに戻って下さい!!」

「……どうやって?」

ハイ? イマナントオッシャイマシタ?

「『どうやって?』とはこれいかに?」

「うーん、変身呪文は聞いたけど、解除呪文、教えてくれなかったんだよねぇ」

だよねぇ、じゃなく。

「変身呪文を知っていれば、解除呪文は分かるから♪ と、女王様に言われて」

「知らないんですか!?(あの有名なアレをっ!?)」

「そうだねぇ……。ついでに言えばキョーコちゃん。身体が小さくなっちゃったから、届かない箇所が数箇所出てきてね?」

え?

「只今、このファントム失速中なんだ♪ 俺の身体のサイズ、元に戻してくれるかな?」

もちろん、姿はこのままね♪

語尾に(あははん♪)と言う言葉が聞こえてきそうな楽しそうな声だった。

遠くなる空は確かにこのファントムが失速して落ちている最中である事を示している。
このままでは墜落、という最悪の状況が待つのみである事は想像に難くない。
前門の虎、後門の狼とはこの事を言うのか……。

ごくり、と息を呑み、キョーコは小瓶を握り締めて再び口を開いた。




⇒第十六話へ
紫苑様。放物線じゃなくて直線でバトン投げつけてごめんなさい!! 後はよろしくっ!!




「と、とにかくっ! 身体のサイズを戻すよりその姿を元に戻す方が先ですっっ」
「……そうかな。そんなことしてたら墜落するよ?」
「魔界人の姿をした敦賀さんと一緒に死にたくないんです!! 敦賀さんは敦賀さんじゃなきゃイヤぁぁぁぁ」

キョーコの悲痛な叫びに蓮は心打たれた。
それもそうだ。粉々になったファントムの残骸と共に発見されるのはキョーコとレイノではなく、キョーコと俺でなければ。

このまま墜落することを前提としているのは何か間違っているような気もするが、いやそれ以前にこんな状況で心打たれている場合ではないと思われるが、蓮はキョーコに向かって叫んだ。

「キョーコっ、解除の呪文を!」
「鏡に向かってスーパーミラーを逆から読んでくださいっ!」
「あらみあぱうす?」
「長音はいらないっっ!!」
「らみぱす?」
「もう一回っ!」
「らみぱす」
「由紀さおりの『夜明けのスキャット』を冒頭から歌ってっ(ちょっと違うけど)!」
「る〜る〜るう〜るぅ〜」

蓮が叙情的に歌い上げると、レイノの姿はしゅるんと少年の姿に変わった。
まどろっこしいやり取りをしている間にもファントムの窓から見える空は遠のき、海底は近付いてくる。しかしそれよりもキョーコが驚いたのは……

「こっ、コーン……?!」

先ほどショータローと血の繋がった兄弟だと聞かされたとき、ショックの余り蓮の髪は真っ白になっていた。その蓮が赤いキャンディーを食べて10歳若返ったのだ。銀色の髪をした少年は、キョーコが幼い頃出会ったコーンそっくりだった。
少年はウィーン少年合唱団もびっくりの天使のような微笑みを浮かべると、キョーコが握り締めている小瓶にそっと手を伸ばした。

「キョーコ、これ、もらうね?」

少年の姿をした蓮が放心状態のキョーコから小瓶を奪うと同時に、風のあおりを受けたのか機体ががくりと傾いた。

「きゃぁぁぁぁっ」

その衝撃でバランスを失ったキョーコは、己の身体を支えようとばしっと両側の壁に手を付く。すると……



『ぽちっとな』



どこからともなくしゃがれた声が聞こえたかと思うと、下降を続けていた機体が空中でぴたりと止まった。

「……え?」
「ああ、間に合った。探してたんだ、そのボタン」

青いキャンディーを優雅に口に放り込みながら、少年・蓮が微笑む。

「間一髪だったね? キョーコ」

目の前でキラキラとした光に包まれて元の姿に戻る蓮。
どうやら墜落の危機は免れたようだが、蓮の言うお仕置きはまだ終わっていない。間一髪どころか、キョーコにとっての危機的状況は続いている。
これから自分の身に降りかかるであろう災難を思い、ぞっとするキョーコ。
しかしそんなキョーコにおかまいなく、ぴたりと止まっていた機体の外で内で怪しい音が響いてきた。
ファントムがキョーコの押したボタンによって次なる変形を始めたのだ。

きー、がしゃん! がしゃんっ ! がしゃんっ!!
しゅっ、しゅっ、ぽっ、ぽっ

ぽーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!

盛大な汽笛を鳴らし、蒸気機関車へと姿を変えたファントムは再び空に向かって上昇を始めた。
気付くとキョーコはレトロな雰囲気いっぱいの車内で、蓮と向かい合って座っていた。

「?????」
「宇宙に飛び立ってしまえば、日の出を見なくて済む。これで不破くんと結婚しなくてもいいんだよ、キョーコ」
「それは良かった……じゃなくてっ! 宇宙って何ですかっ!!」
「知らない? 銀河鉄道」
「あ、知ってます……じゃなくってっ!! 何でこんなことにっ」
「マリアちゃんに頼んで開発してもらったんだ。ほらプライベートで科学研究所持ってるから」
「ああ、なるほど……じゃなーーーーーいっ!!」

ノリツッコミを繰り返すキョーコに蓮はこの上なく神々しい笑顔で問いかける。

「さあキョーコ、本当にもう俺に秘密はない? ここなら誰にも邪魔されないからね」




⇒第十七話へ
かなもんことKanamomoさん! 突き刺さる勢いでバトン投げてごめっ! どうか受け取ってぇぇぇ!!




「秘密ですか……」

目まぐるしく変わる、想像もつかない状況に疲れ切ったキョーコは、もう、秘密もへったくれもないわ、と思ってしまう。
少しむくれ気味のキョーコに、蓮は穴だらけの麦藁帽子と古びたマントを優しく被せた。

「なんですか、これ」
「いや……銀河鉄道といったらこれだよねと思って」
「はぁ……」

窓の外に広がる、闇、そして無数の星々と銀河。
車内には誰もおらず、静寂だけが二人を包んでいた。

「あの……」
「ん?」

いつの間にか黒いコートに身を包んでいた蓮に、キョーコはとりあえず現在の状態を確認するために、いや、少し冷静になりたいために質問をする。

「これ…マリアちゃんの科学研究所で開発されたものって言ってましたけど、なんだか随分とレトロな雰囲気なんですが」
「あぁ……それはね……」

キョーコの問いに、にっこりと微笑みながら蓮が答えかけた時、車両の扉が開き、驚くような、というより予想通りかもしれない人物がやってきた。
その格好から、おそらくこの蒸気機関車…っぽい何かの車掌なのだろうが、やけにロリータ風味にアレンジされた車掌の制服を着たマリアがにっこりと二人に微笑んだ。

「乗車券を拝見します♪」

マリアに促され、蓮が黒いコートのポケットから出した定期券の様なものには「地球⇔アンドロメダ 無期限」と書いてあった。

(アンドロメダ?……どこなの、それ……)

想像もつかない行き先に、キョーコはもう質問する気力も失い、ごく普通に会話を交わす蓮とマリアをぼんやりと眺めていた。
パスの確認をしたマリアがにこやかに退場した後、座席にゴロンと横になり、すっかり疲れ切った様子のキョーコに再び蓮が質問をした。

「もう一度聞くけど……本当にもう俺に秘密はないね?」
「もう、ありませんよ……テーマに沿って暴露したいんですけどぉーないものはないんですぅー」

若干やさぐれてきたキョーコに、蓮はくすりと笑うと、黙って窓の外の銀河を見つめた。

「……敦賀さんこそ…何か隠しているんじゃありませんか?」
「…………」

すさんだ気分のキョーコがなんとなく口に出した質問返し。
僅かに蓮の空気が乱れるのをキョーコは感じた。

「……何か隠していますね?」

キラリと眼光鋭く蓮を見つめるキョーコ。
蓮の表情は崩れなかったが、その背中に漂う空気にはキョーコだけには見える、明らかに動揺したと思える微かな揺れがあった。

「か く し て い ま す ね !?」

勢いよく上体を起こし、キョーコは蓮に詰め寄る。
蓮は「ははは……キョーコは疑い深いね」などといってとぼける気満々だったが、キョーコは疲れた頭と体に鞭打って立ち上がり、蓮の黒いコートの襟首を掴んでガクガクと揺さぶった。

「話してっ!話してくださいぃぃ!これ以上おかしな事が起きたらもう私変になっちゃいます!」
「はは…もうキョーコは可愛いな…そんな可愛いキョーコに隠し事なんてするわけないじゃないか」

滝のように涙を流しながら、必死で叫ぶキョーコを、蓮は優しくそっと抱きしめる。
そして、少し瞳が赤くなったキョーコをじっと見つめると、静かに語りかけた。

「あぁ……そうだね、さっきの質問に答えていなかったね……まぁ秘密としてはささやかなものなんだけど」
「さっきの質問?」
「この車両がレトロな雰囲気なのはなぜかって事」
「あぁ……そうでしたね……」

正直、もうそれはどうでもいいと思ったキョーコだったが、一応蓮の話に耳を傾ける。

「なぜ……なんですか?」
「それはね……二度と帰らないお客のためには、こんな演出も必要なんだって事なんだよ……」
「えっ」

ささやかどころではない秘密の暴露にキョーコの頭は真っ白になった。

「にっ、二度と帰らないって……!」
「これでやっと二人きりの世界へ行けるんだよ……」

遠くを見つめながらそう呟く蓮にキョーコはなんと言っていいかわからず、黙って立ち尽くしてしまっていた。

その時、急に車内が赤く点滅し、不安を煽る警告音が響き渡る。
慌てて走ってやってきた車掌マリアが「大変です!追っ手が!」と叫び、車両前方へと走り去っていった。

「お、追っ手?」

驚いた蓮とキョーコが窓から外を見るとそこには───宇宙バージョンへと進化したと思われるメガ社長と巨大タコ星人の姿。

アイニハ シレンガ ヒツヨウダッテイッテンダロ? レン…

宇宙仕様のメガ社長と巨大タコ星人から、同時に巨大な光が発せられ、波動砲さながらの勢いで二人が乗るレトロな銀河鉄道に向かって迫ってきた。




⇒第十八話へ
蛍様、ど、どうかよろしくおねがいしたしますっ




ちゅどーーん。

物凄い衝撃に車体が揺れ、宙に放り出されたキョーコは次の瞬間、床に激しく叩きつけられた。
背中をしたたか打って、息が詰まる。

「……っ!」
「キョーコっ!」

自分を呼ぶ蓮の声に、必死でその姿を探した。
けれど、霞がかかったような己の視界は、明かりの消えた暗い車内をぼうとさ迷うだけ。

(……つるがさん…………)

やがて、閉じたがるまぶたの重みに引きずられたキョーコは、優しく手招きをする闇に……――その身を委ねた。

だからキョーコは、その後のことはなにも知らない。
追ってきた彼らがどうしたのだとか、蓮が、彼女を守るために――――なにをしたのだとか。


ぼんやりと意識が戻り、痛む身体を起こしたキョーコは、目の前の光景に愕然とした。
レトロな趣きが可愛らしかった車内は、あちこちの壁が砕け、座席はひっくり返り、床は隆起して、見るも無残な有様だった。

そして、自分のいる場所と、自分の身体を抱える人物に気付く。

「つるがさん……」

蓮は、腕の中のキョーコに柔らかく笑いかけた。

「よかった……無事だったんですね……」
「うん、俺は大丈夫。君の方がなかなか目を覚まさないし、心配したよ」
「ごめんなさい……心配かけて…………」

蓮はそっとキョーコの髪を撫で付ける。
ふと、キョーコが自身の身体を見下ろすと、救命胴衣のようなものを着せられていた。
おまけに、長方形のメカニカルな箱の中に横たえられていて、箱の外から蓮が腕だけ伸ばしてキョーコの上体を支えているのだ。

「敦賀さん? あの、これはいったい」
「……ごめんね。それは一人用の脱出装置だから、俺は一緒にいけないんだ」
「なにを言って」
「さよならキョーコ。……愛してるよ」

キョーコの唇にキスを落として、蓮が離れると箱の天井が閉まった。

(敦賀さん!? 敦賀さんっ!!)

キョーコはガンガンと天井を叩いた。




⇒第十九話へ
お願いしますgako様すみませんすみませんごめんなさいっ




避難カプセル内部から唯一外部が見える窓より、キョーコは蓮に必死に訴える。
蓮は悲しみに堪えるように口をひきしめ、カプセルの窓を叩き続けるキョーコの手に、そっと自ら掌を重ねた。

「キョーコ。ここまで俺達は来てしまった。最後の最後の秘密を君に話そう。……俺は。……俺は敦賀蓮じゃない。俺もアンドロイドなんだよ。本体はまもなく到着する次の停車駅、『惑星クオン』で拘束されているんだ」
「……え」

キョーコはボイススピーカーから聞こえてくる雑音まじりの蓮の言葉にぽかんとした。

 ワクセイ・クオン……?

みしみし。どうん、ばりばり。

強い圧力で車両がいびつに潰されてゆく薄気味悪い音が絶えず聞こえる。

「それがこのへぼんリレーの種明かしだ。俺も、社長もマリアちゃんも不破くんも、皆様子が変だっただろう? 君以外の全ての登場人物が、もう既に機械人間と入れ替わってしまっているんだ。マリアちゃんが開発したロボットの一部が反乱を起こし、オリジナルと入れ替わってこの二次世界を乗っ取ろうと企てているんだよ……。そして俺は、敦賀蓮のコピーの俺は、君を惑星クオンに連れていく任務があったんだ」

 どどーん。

車両を揺るがす音と同時に、パラパラと蓮の頭上にほこりが落ちる。

「キョーコ。ほんとうは君といつまでも旅をしたかったよ。けれども惑星クオンに行けば、君は……ねじにされてしまう。君ほどの意思の強い女の子はいないからね。そしてスキビ世界は機械人間のモノになってしまう」

キョーコは慄然として蓮を見る。こわごわと窓越しに重なる蓮の手を見て。

「……暖かい。そんな。敦賀さんが機械の身体だったなんて……」

蓮の微笑みにキョーコはと胸をつかれ、後の言葉が続かない。
バイザーの向こう側で燐光をもって輝く美しい恋人は。
端正な面立ちに銀色化した髪がかかり、それを掻き上げ、長い睫毛を震わせてキョーコを見つめている。
磨き上げた鏡のように眼差しは一点の曇りもなく。神々しい笑みはただ純粋にキョーコの為にのみ向けられて。
諦めではない。愛しいものの為に命を賭す男の強い意思と希望と、拒否を許さぬ崇高さがそこにあって。

「さようならキョーコ。俺はこのまま残って惑星クオンに行く。君は地球に戻って待っていてくれる? きっとオリジナル達を救い出して見せるから」
「……そんな! 敦賀さんはどうなるのですか? このままでは危険です!」
「俺が死んでも葬式はいらない。ただいつまでも覚えていて時々思い出してくれれば……それが一番うれしい」
「待って、待って……! 敦賀さん、私も最後の秘密があるんです! 本当はまだ告白してないことがあって……!」

身体が冷たくなる。……死? そんな馬鹿な!!!
例えアンドロイドであっても、目の前の敦賀蓮は…敦賀蓮なのだ。
このまま行かせては行けないと、キョーコは必死で外に向かって叫ぶ。

「わたし……、私! 本当は『坊』だったんです! テレビ局の地下でお逢いしたニワトリだったんです! ……敦賀さんの『天手古舞い』笑ってしまいました! いつも思い出しては笑っていました! 敦賀さんのこと、可愛いって思ってました! だから、だから!……」

キョーコは訴えた。涙をぼろぼろ零し身体を震わせ、髪を振り乱して何度も蓮に訴えた。

「だから……お仕置きしてください……! いつもみたいに。いつものように帝王でいて? 夕べみたいに、一緒にいて? ずっと、寝かさないで……! 敦賀さ……っ」

ばりばり。ばりーん!

背後から激烈な振動とともに、爆発風が車両を襲う。
蓮が振り返るとドア越しにタコ星人の触手がキョーコを探して這いずってくるのが見えた。

「伝えておくよ。オリジナルに今のこと。きっと何があっても君のところへ戻っていくだろうね」
「……っ、じゃなくて! 敦賀さん! ……あなたがっ……! あなたが……っ!!」

蓮は懐のポケットからあるものを出して。


 それは

  煌めく碧い石。


ふ、と目を細め、蓮はそれに唇をあてる。

「……それは……!」
「これを惑星クオンの中心に投下すればアンドロイドの拠点は崩壊する……。借りておくね。キョーコ」

どかーん!

とうとうドアを破ってタコ星人の触手が蓮に襲いかかった。
間一髪、攻撃をかわした蓮はドアの左部スイッチに飛びついて。
その瞬間、凄まじい爆発音と一緒に、キョーコの乗った避難カプセルが列車から放りだされた。

「……っ!! つ、敦賀さん!!!」

ガンガンと襲い来る衝撃波に堪えていたキョーコは、やがてゆるりと振動がおさまるのを待って、恐る恐る瞼をあける。
カプセルの向こう側に広がっていた光景は…想像を絶するおぞましいもので。

暗黒の宇宙の真ん中で銀河鉄道にタコ星人本体が絡みつき、ぬめぬめと舐め尽くすように締め上げられ。
半壊した車両は黒煙を吐き、虚空のさなかで捻れのたうち回り。
そして。
銀河鉄道が引力に引かれ落ちて行く先には、極小の銀色に輝く機械で構築された惑星クオン……!

「敦賀さん……! 敦賀さん……!?」

ボイススピーカーに向かい、キョーコは叫んだ。
タコ星人と列車はからみあいながらやがて大気圏に突入し轟々と火を噴だし、バラバラに分解してゆく。

「逃げて! 墜落します!! 逃げてええええっ! 敦賀さん……っ!!!」

『さようなら、キョーコ! 俺は宇宙で愛を叫ぶ。永遠に愛してる!』

掠れた声。その瞬間。

 カッ! ギュオオオーーーーーーーンッ!!

落ち行く業火が恐ろしい密度の光の珠となり、四方の宇宙を凄まじい勢いで照らしあげた。
ショッキング・ピンクの目にまばゆすぎる、影をもつ重く毒々しい光。
一瞬のうちに一点に集約されたかと思うと。

惑星クオンが轟音と共に激しく揺らぎだし、各所に爆発が発生し。
たちまち星全体にそれが広がりはじめた。

惑星の崩壊。
それはキョーコが生まれて初めて見る、自然に逆らった者どもの、禍々しい象徴の喪失であった。


「敦賀さんっ……! い、いやああああっ!! きゃああああっっ……っ!!!!」




⇒第二十話へ(真打ち登場、この大混乱の逆恨み、主催HINA様へ投げつけます! よろしくお願いいたします!)




真空では音は伝わらない。

古典物理学ではエーテルという架空の元素が天空を満たし光を伝播すると考えられていたがそんなものは存在しない。
愛があれば言葉はなくとも思いは通じるのかもしれないが、宇宙空間では触れ合って音を振動として耳へ運ばなければ無音である。

常闇に浮かび、もの言わず煌々と燃え盛るかつて惑星だった塊。
恒星だとしたら水素核融合を起こし光り輝くそれも。
人工的に破滅へと追いやられた哀れな末路は醜悪なほどに禍々しい。

キョーコは言葉を失ったまま溢れる涙の一筋も拭わずただ黙って見ていた。
視神経が焼き切れそうなほど熱い。
カプセルにシールド保護がされていなかったのならひとたまりもなかったであろう。
耐え切れず瞼を閉じると蓮と過ごしたほんの僅かな間の恋人同士だった柔らかな時間が、走馬灯のようにキョーコの脳裏を駆け巡った。

 愛する事を諦めた心にいつしか巣食った愛しい男性(ひと)
 拉げた魂を惜しみない愛で優しく包み込んで…
 最大の秘密を打ち明けてくれたのに自分は極限状態になってやっと…

  キスを重ね
  肌を寄せ
  快楽を分かち合った日々

スキビ二次界の主要人物は悉く暫く前から徐々に機械人間と入れ替わっていたと言う。
いったいいつから?
自分が愛を確かめ合ったのは……オリジナルなのかコピーなのか。
どちらでもどれでも。愛する蓮には変わりがない。―――そう思えた。

キョーコは昇華しきれない苦悩が詰まった頭を掻き毟りながら号哭した。

「う、そ…つき。…一緒だって。……ずっと一緒だって言ったじゃない………『永遠に愛してる!』って。
―――聞こえない。聞こえないよ、敦賀さん。言ってよもう一度!!……『俺は宇宙で愛を叫ぶ!』って言って!!!!」

ウイーーーーン、ゴゴゴ…
ピー…ピ、ピ…ウィーン…

静寂だったカプセル内でそれはまるでコンピュータを起動したような音で。
いくつかのランプが点った後、合成ボイスが響き渡った。

『個体識別の為のスキャニング完了。―――LME02101225最上キョーコを確認。声紋照合。パスワード【宇宙で愛を叫ぶ】を認証。9つのロックを解除します…だコロン』
「はっ……へっ??」

目の前で起こった“たった今まで”でさえ処理しきれていないのに、新たなる事変にキョーコはもはやプチパニック状態である。

「何で“コロン”?」
『ツッコミはそこなのだコロン?』
「えーっと。……あなたはダレ?」
『このカプセルに搭載されている人口頭脳、ホモッチャマだコロン』
「へ?ほ??“オ”じゃなく“ホ”?」
『“ホ”は“オ”の三代あとの後継機だコロン。因みに間には“シ”と“カ”を挟むだコロン。……他に何か聞きたい事はないだコロン?』
「脱出の為の必要最低限の電力しか残されていないって…」
『心配無用なんだコロン。ボッチの動力は乾電池なんだコロン』
「ぼ、ぼっち?で、電池??」
『単三二本並列(省エネ)だコロン。さぁそれより早く選ぶがいいんだコロン』

ウイーン…

キョーコの目の前にせり出してきた真っ黒いボード。
大きさは縦10cm横30cmくらいであろうか。
極薄のその上に横一列に幾つか並んだボタンにはアルファベットと日本語とで何やら書かれてある。

「これ…なに?」
『行き先決定ボタンだコロン』
「行き先…って?」
『キョーコがこれから行く場所を自分で決められるだコロン』
「宇宙船の脱出ポッドの行き先と言えば普通地球じゃないの?」
『そんな…普通、だなんて…プッ(←)何の為のへぼんなんだコロン』
「だって!へぼんなんて初めてなんですものぉおぉっっ!!!」
『まあそう言わずによーーーく見るだコロン』
「ボタンが9個って事は行き先も9つって…こ、と……?」
『そうだコロン。ボタンのそれぞれに何か書いてあるでコロン』

キョーコはまじまじとボードに視線を走らせ、ボタンに刻まれた文字を読み上げた。

「左から、[HINA] [gako] [蕾]………これってもしかして…(汗;」
『今回のへぼんリレー参加マスタの名前だコロン』
「な、、、何故に??」
『好きなボタンを押すとそのマスタが用意してくれた未来(素敵な結末)に進めるんだコロン』
「なるほど……って、ちょっと待ったぁあぁぁっっ!!!!!……他は白いのに濃淡は違えど二個だけ桃色のスイッチが」
『それはへぼんで禁じてあった大人展開OKのスイッチだコロン』
「桃話は……確か最後に主催が書くとか何とか言ってた…ん、、、じゃ?」
『2分35秒小遅刻と1時間3分42秒大遅刻師弟へ愛の鉄拳制裁だコロン』
「なるほど……って大人の展開はここではマズイんじゃっ!」
『細かいところにうるさいだコロン。その辺はうまくやるだコロン。さぁ、どれを選ぶだコロン?残り30秒だコロン』
「ちょ、ちょっ!!ちょっとまってーーーーーっ!!!」




 * * *




さてさて。
ここから先は参加マスタ各自に綴っていただきましょうv。
へぼんか、それともnotへぼんかw

※マルチエンディング
⇒複数の違うエンディングが用意されているコト。








2010.04.〜05.09 / 素敵素材 NEO HIMEISM 様 / お手数ですが画面を閉じてお戻り下さい。

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